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最高裁判所第二小法廷 平成2年(オ)701号 判決 1990年11月26日

上告人 有限会社椿鯨亭

右代表者代表取締役 中平善温

右訴訟代理人弁護士 木ノ宮圭造 滝井繁男 仲田隆明 重吉理美

被上告人 管理組合法人ヴィラ椿二号館

右代表者理事 金田佳壽子

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人木ノ宮圭造、同滝井繁男、同仲田隆明、同重吉理美の上告理由について

一  建物の区分所有等に関する法律(以下「法」という。)四七条二項の管理組合法人(以下「管理組合」という。)が、その規約によって、代表権のある理事の外に複数の理事を定め、理事会を設けた場合において、「理事に事故があり、理事会に出席できないときは、その配偶者又は一親等の親族に限り、これを代理出席させることができる。」と規定する規約の条項(以下「本件条項」という。)は、法四九条七項の規定により管理組合の理事について準用される民法五五条に違反するものではなく、他に本件条項を違法とすべき理由はないと解するのが相当である。

二  すなわち、法人の理事は法人の事務全般にわたり法人を代表(代理)するものであるが、すべての事務を自ら執行しなければならないとすると、それは必ずしも容易ではないとともに、他方、法人の代理を包括的に他人に委任することを許した場合には、当該理事を選任した法人と理事との信任関係を害することから、民法五五条の規定は、定款、寄附行為又は総会の決議によって禁止されないときに限り、理事が法人の特定の行為の代理のみを他人に委任することを認めて、包括的な委任を禁止したものであって、複数の理事を定め、理事会を設けた場合の右理事会における出席及び議決権の行使について直接規定するものではない。したがって、理事会における出席及び議決権の行使の代理を許容する定款又は寄附行為が、同条の規定から直ちに違法となるものではない。

三  ところで、法人の意思決定のための内部的会議体における出席及び議決権の行使が代理に親しむかどうかについては、当該法人において当該会議体が設置された趣旨、当該会議体に委任された事務の内容に照らして、その代理が法人の理事に対する委任の本旨に背馳するものでないかどうかによって決すべきものである。

これを、管理組合についてみるに、法によれば、管理組合の事務は集会の決議によることが原則とされ、区分所有権の内容に影響を及ぼす事項は規約又は集会決議によって定めるべき事項とされ、規約で理事又はその他の役員に委任し得る事項は限定されており(法五二条一項)、複数の理事が存する場合には過半数によって決する旨の民法五二条二項の規定が準用されている。しかし、複数の理事を置くか否か、代表権のない理事を置くか否か(法四九条四項)、複数の理事を置いた場合の意思決定を理事会によって行うか否か、更には、理事会を設けた場合の出席の要否及び議決権の行使の方法について、法は、これを自治的規範である規約に委ねているものと解するのが相当である。すなわち、規約において、代表権を有する理事を定め、その事務の執行を補佐、監督するために代表権のない理事を定め、これらの者による理事会を設けることも、理事会における出席及び議決権の行使について代理の可否、その要件及び被選任者の範囲を定めることも、可能というべきである。

そして、本件条項は、理事会への出席のみならず、理事会での議決権の行使の代理を許すことを定めたものと解されるが、理事に事故がある場合に限定して、被選任者の範囲を理事の配偶者又は一親等の親族に限って、当該理事の選任に基づいて、理事会への代理出席を認めるものであるから、この条項が管理組合の理事への信任関係を害するものということはできない。

四  そうすると、本件条項を適法であるとして上告人の請求を棄却した原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に基づいて、又は原判決の措辞の不当をとらえて、原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い,裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中島敏次郎 裁判官 藤島昭 裁判官 香川保一 裁判官 木崎良平)

上告代理人木ノ宮圭造、同滝井繁男、同仲田隆明、同重吉理美の上告理由

原審判決は、判断の基本に於いて、建物の区分所有等に関する法律第四九条第七項によって準用される。民法第五五条の解釈及び適用を誤っており、破棄を免れない。

一、すなわち、民法第五五条の解釈として、民法により設立された法人(以下民法上の法人という)の理事は、定款、寄付行為又は総会の決議によって禁止されない場合に限り、特定の個々の行為についてのみ、他人をして代理させることができるだけであって、包括的な代理を許されないことは定説であり、建物の区分所有等に関する法律第四九条第七項は、管理組合法人につき民法第五五条を準用しているから、管理組合法人の理事も亦包括的な代理を許されないのが原則である。

然るに、原審は、管理組合法人である被上告人がその集会に於いて、その理事をして配偶者もしくは一親等の親族をもって代理人とし理事会に出席させることが出来る旨、換言すれば理事の包括的代理行為を制度的に認める旨、従って建物の区分所有等に関する法律第四九条第七項により準用される民法第五五条に違反して無効である内容の規約を受ける旨決議したのを、建物の区分所有等に関する法律第四九条第七項、民法第五五条の解釈を誤って、違法でないと判決した。

以下に述べる通り原審のこの判断には根本的な誤りがあり、その結果、原審判決は取消を免れない。

二、先ず、原審判決は、「民法では、数人の理事がある場合には、必ず各理事が法人を代表し、定款、寄付行為又は総会の決議によっても、理事が一般的代表機関であるという本質に反する様な制限をすることはできない」(原審判決五枚目表八乃至一二行)が、民法上の法人の場合と異なり、管理組合法人では建物の区分所有等に関する法律第四九条第三、四項があるから、規約又は集会の決議により複数の理事を置くか否か、また、数人の理事を置いた場合に管理組合法人を代表する理事と代表権を有しない理事とを任意に定めることができるとして、これを管理組合法人の私的自治に委ねているとし、この法の趣旨からすれば、管理組合法人の理事(以下組合理事という)が法人を代表して対外的行為をする場合は格別、単に内部的な事務を行う場合については、規約又は集会の決議によって、理事会に第三者を代理人として出席させることが出来る旨定めることも、私法人である管理組合法人の私的自治に属する事であると言っている。

民法上の法人では、代表権の無い理事を置くことが不可能であるとし、組合理事については、建物の区分所有等に関する法律第四九条第三、四項が有って初めて代表権の無い理事を置くことが出来るのだと、本条項を創設的規定として読むのである。

(原審判決は右に引いた通り、法人を代表して対外的行為をする場合は格別といっているが、建物の区分所有等に関する法律は一部理事の対外的代表権を無くすることが出来るとした、というのが、原審の考え方ではなかったのだろうか。この部分理解に苦しむ)

三、原審判決が民法上の法人の理事が代表権は定款、寄付行為又は総会の決議によっても奪えないものであるとするのは誤りで明らかに間違っており、法令の看過誤解も甚だしい。

民法第五二条は法人に一人又は数人の理事を置くことを要すとし、第五三条本文は理事は総て法人の事務につき法人を代表すと規定して要るから、民法上の法人の理事も元来各自で代表権を有することになっている。

組合理事に関する建物の区分所有等に関する法律第四九条第二、三項の扱いと趣旨は同じである。

けれども、民法上の法人が代表権のない理事を自治的に置くことが出来ないというのは全くの誤解で、実際問題としても民法上の法人は世上美術館、博物館その他各種文化活動を初め、巨額の資産を有して大規模な公益事業を行うものも多数あり、多くの場合定款、寄付行為により理事会を設けて運営の衝に当たらせていることは周知のとおりであり、その概ねは代表権を理事長、代表理事に集中し、理事は理事会に参加して業務運営上の重要事項を審議し、表決するだけにしている。このような古くから広まり、社会的に重要な作用を行っている理事会、代表理事の制度を自治的に設けることを、民法が禁じていると解釈するのは余りにも不都合過ぎる。

思うに、民法上の法人で代表権の無い理事を自治的に置くことが出来ないと解する原審は民法第五三条但書の存在を見落としているのである。

この但書に基づく「定款、寄付行為による代表権の制限として最も一般的にみられるのは、理事のうち特定の者(理事長・会長)のみが代表権を有し、その他の理事は一定の順序で、代表権を有する理事に事故がある場合にかぎってその職務を代行する旨の定款・寄付行為の規定である。・・・理事のうちの特定の者に代表権を集中する上記のような定款・寄付行為の定めは、無論適法と解して差しつかえない」(林良平編集注釈民法(2) 二一四、二一五ページ 同旨 幾代通 現代法律全集5 民法総則一〇九ページ その他 ここに代表というのは法人学説に由来するだけで理事の対内、対外の業務執行権全般を指すことは定説である)のである。

建物の区分所有等に関する法律第四九条第四項の趣旨と全く同じであって、同条の条項が民法の場合より具体的に書かれているのは、一般普通の国民が多く利用するであろう本法の性格並びに立法技術上、明快化した確認規定として挿入されているに過ぎない。

原審がこのように単純な法令の誤認を冒したのは遺憾である。

四、原審判決は、亦、同法第三九条の集会(社員総会である)に関する規定を引いて、会議の決議が代理に親しむと指摘しているが、代理に親しむかどうかはその会議が如何なる会議であるかの問題なのであって、原審判決と雖も株主総会(社員総会である)の会議は代理に親しむけれども、取締役会(理事会である)の審議、表決が代理に親しまないことを否定する積もりは無かろう。制度上その会議の持つ役割、権限の性質と構成員の職責、期待される能力、信頼関係とのバランスが或いは会議への代理参加が認められ或いは拒否されるという風に結論を分かつのである。

一般に、法人の執行に関する基本事項を決定し代表理事の権限行使を監督する機関である理事会には、必ず理事自身が出席し、審議に参加し、議案につき意見を述べ、亦、聞き、必要とあれば同僚を説得し討論し、慎重に考慮し、場合によっては修正案を提出する等十分に注意を払い、法人のため最善の結果となるよう忠実に職務を果たすべきであり、理事が代理人を出席させて足れりとする等のことは自己を理事に選任した社団構成員、寄付者らの信頼を破る行為であって論外である。

株式会社の取締役会について取締役自身が出席する義務があるのと全く同じである。

管理組合法人である被告上告人の理事会は将にかかる理事会であるから、会議に出席し審議に参加し表決することは理事の職責の本分であって、理事の忠実義務にてらしても、かかる職責を第三者に委任することは許されるところではない。

五、通常、理事会が設置される理由は、複数理事の衆智を集め且つ慎重に重要な業務の執行の基本事項を決するためであり、他方責任の明確化と代表行為を含む業務執行の効率化のため、単独乃至少数の代表理事を定めて代表権、業務執行権を集中するのである。

一般平理事は、株式会社の取締役と同じく、理事会の議事に参加するだけであるが、だからといってその職責が軽い訳ではない。

理事会は会議体であるから審議討論の進行につれ、理事は臨機応変の応対、判断が必要であり、原案を大きく変更する動議が出てくることを日常避けることが出来ない。

このような審議討論表決の事務を包括的で無い等と誰が言うのであろうか。理事会の議題が予め理事に告知されていたとしても、その内容が特定具体的で単純に賛否を問える性質のものでない限り、会議の審議討論表決は必定包括的経過を辿る。

理事会に提出される議案は理事会の担う役割の重要性からいって多くの場合、単純に表決できる程度に特定具体化されていることは期待できないし、そのときでも、賛否いずれに与するかは、会議に出席し、審議討論に参加して後に決するのが理事の義務である。

従って、被上告人の規約の様に理事会招集通知に会議の目的の告知を要件としていても、目的事項が特定具体的に通知される様要求されている訳ではなく、重要案件についても議案の要領さえ通知する必要がないのであって、その目的事項を告知して招集された理事会に理事が参加することをもって、包括的な事務でなく特定具体的であるとする保証は全くなく、理事会に出席する理事の職務は性質上も常に包括的とならざるを得ない。

理事が第三者に委任して理事会に出席させることは、必然的に、法が禁止する包括的な復代理をすることになる。

六、次に原審判決が、組合理事の権限を対外的代表行為と内部的事務を行う場合に分かって、代理人選任権(復任権)の範囲を決めている点を検討することにする。

原審がかく判断した基本的根拠は、理事の代表権制限につき民法上の法人と管理組合法人とで大きい相違点があるとする点であって、その誤りは既に指摘した通りであるが、その様に説く者もあるので更にチェックする。

理事は民法上の法人の必須の執行機関であり、法人のために必要な対内的・対外的なあらゆる業務を執行すべき職務・権限を有し、善良な管理者の注意をもって、原則として、みずから業務を執行することを要する。

民法第五五条が理事の代理人選任権(復任権)につき規定しているわけであるが、復委任できる事務の範囲について、文言上、対内的と対外的とをいささかも区別していず、定款等による制限は別として、委任事項が特定具体的であることだけを要求しているのである。

本条の文理解釈から、民法法人の理事の代理人選任権(復任権)制限範囲を、事務の対内、対外的性質に分かつことはできないのであって、そのいずれなるを問わず特定具体的であることを要するのである(幾代通 前掲書一〇六ページ その他)。

組合理事も亦必須の執行機関であることは明らかで、建物の区分所有等に関する法律第四九条第七項が民法第五五条を準用しているからには、その代理人選任権(復任権)も同じ制約に従うといわなければならない。管理組合法人には民法第五五条が準用されるのであるから、管理組合法人と民法上の法人との法制的な差異に応じて、必要な修正解釈がされるべきであることは当然であるが、法的にも実際的にもかかる修正を必要とする原因となるべき差異を両法人間に認めることができない。

七、因みに、被上告人が援用する「公益法人の理論と実務」(<証拠>)は、民法上の法人の理事会に理事の代理人が出席することについて、民法第五五条が、法人の代表行為の委任に関する規定であり、内部事務に関する委任には適用されないとして、任意代理人の復代理に関する民法第一〇四条がそのまま適用されると説くが、民法第五五条の文理を無視するものであり、「理事の代表権は、その範囲が広汎であり、かつ継続する点で、法定代理人の代理権に似ているが、民法は、理事の職責を重視し、その復任権について、法定代理人と任意代理人の中間的なものとした(我妻栄 民法講義I 新訂民法総則一七二ページ)立法の趣旨を無視する謬説である。

八、次に、原審判決は、管理組合法人が敷地及び付属施設を含む組合員の区分所有建物の管理を行う目的を持つに過ぎず、積極的に事業を行うものでないとして、理事会に出席して決議を行うなど内部的な事務を行う理事の権限行使につき、区分所有建物を共用する理事の配偶者や一親等の範囲の者に代理行為を認めても必要かつ妥当であるという。

視野の狭い発想ではないかと思う。

けだし、管理組合法人は組合員の有する区分所有建物を管理、保全をするのが目的であるが、共同住宅、マンションの管理、保全は必ずしも簡単ではなく、このことは、その管理、保全を請負うことを事業目的とする所謂管理会社が近時増加し、業績をあげている事実をみるだけで判る。

多額の報酬を支払って誰が簡単な仕事を他人に請け負わせるか。

管理組合法人は、数百戸を構成員とする大規模なものもあり、理事会が自主的に管理、保全業務に当たっているケースも多い(規模が大きなものの方が自主管理に馴染む)が、小規模な団地であっても、建物、付属施設、敷地の管理、保全は軽易な仕事では無い。

建物の区分所有等に関する法律自体、管理、保全業務の煩雑を専門的に負担させるために、管理者を定めて管理を委ねること(同法第四節)を認めており、管理者を置いたり、又一般に行われているように管理会社に建物等の管理を請け負わせてしまったときに初めて、管理組合法人の理事会の事務が軽易になるのである。

そうで無ければ、仕事は煩雑でまた重い。

加之、管理組合法人は、建物の大改修や建替えをすることが出来るだけではなく、人が死ぬのと同じく不確定期限に於いて必ずこれをしなければならない。この種建設工事が、積極的事業でないとはいえまい。

管理組合法人は中間法人であって営利を目的としないとはいえ、少なくとも収支を償い、通常は大規模修繕を賄うだけの積立をする必要があるのだから、経済的側面からいってもその管理には相当の手腕が要求される。

又、管理組合法人の多数組合員の中に、意見の対立が生じることやいろいろ変わった人が出てくるのも避けがたく、理事会の運営そのこと自体必ずしも常に簡単容易とはいえないのである。

結局のところ、管理組合法人の目的業務は、管理費、修繕積立金等を毎月集金する建物管理会社、建物、敷地の清掃を請負う清掃業者、壁の塗変え等をする業者、大規模修繕や建築工事を発注する不動産会社(リゾートマンションでレストランを持つものもある)等のいろいろな経済的業務を複合したものであって、決して原審判決が積極的でないというようなものではあり得ず、管理組合法人の運営管理も相当に複雑で、かかる実務に携わる理事会、理事の責任もまた軽易でないと言わざるを得ない。

九、被上告人の管理する建物がリゾートマンションであることは、原審指摘の通りであるけれども、一般にリゾートマンションは個人が家族単位で所有し、利用するだけのものではなく、会社、団体が社員の福利施設として所有利用するケースも多く、被上告人の組合員にもそのような利用をする会社、団体が多数ある。

これら会社の立場からすれば、ときにその区分所有建物の管理、保全、利用は会社にとって重要な付属的業務であり、資産としての管理保全面で更に重要とする者もあって、余り軽々しく建物の管理業務をされても困るのである。

折角、信頼して選任した理事が、勝手に自分の家族の一人を代理人として理事会に出席させるようなことは我慢できない。

一〇、原審判決は、被上告人の理事が遠隔地に散在しているので、理事会に理事本人が出席せず、配偶者等代理人が出席することが多かったと認定し(この認定は事実とやや違うが、毎月一回程度理事会が開催されていたと認定している点は全くの誤認である。このような頻度で理事会が開かれるようになったのは最近に、現理事長が建物の建替えを提案して行動し出してからのことである。この点はさて措く)、かかる親族が代理人として理事会に出席することを認めないと、被上告人のような管理組合法人の理事会の運営に支障を来すと考えて救済したようであるが、本件で争われているのは、極めて重要な案件が議題となる可能性もある理事会への代理出席を認めるべきかどうかという制度的問題であって、一個の管理組合法人の便宜に従って判断すべきではない。

理事自身の出席が難しくて己むなく代理人が出席した理事会決議を救済するには、自ずから別の方法がある。

亦、複数理事を置く方が合理的でもありまた必要でもあるが理事諸公の定足数確保に苦しむ様な場合には、管理組合法人の理事会は法定機関ではないのだから、理事会を廃して、規約により別途、簡便、確実な方法を規定し、理事間の意思疎通と意見統一を計るべきである。

こんなことは極めて簡単である。

一一、本件の争いは、被上告人の理事会の特定具体的事務案権に関する決議の効力を争うものではなく、管理組合法人の規約で、理事が理事会に代理人を出席させることができるか、という制度的問題である。

従って、被上告人自体の便宜を考慮するのはむしろ間違いであり、管理組合法人制度、ひいては法人制度全般の問題として判断しなければならない。

法律的常識に従い、一般に、株式会社の取締役会を含む法人の理事会の審議表決権を第三者に委任することができるかといえば、不可という答えが出てくるに違いない。

それでは有限会社の取締役会ではどうか、学校法人の理事会ではどうか、社会福祉法人では、法人格ある労働組合や公務員の職員団体ではどうか等々の判断が、法人の種類によって、一、一異なる様では困ることを否定できない。

わが法によって設立される法人で理事会を持つものは多いが、特殊法人を別にすれば、理事会が法律で制度化されているのは株式会社の取締役会、中小企業協同組合法により設立された協同組合の理事会位のものであって、公益法人の理事会はもとより、多数存在し広く機能している有限会社の取締役会や学校法人の理事会は全て定款、寄付行為により自治的に設けられている。

学校法人の場合は、私立学校法第四九条が民法第五五条を準用しており、その他準用規定を持たない法人設立根拠法による場合でも、理事の忠実義務の面からも復任権については同趣旨に解釈されるから、本件の判断は、自治的に設置された理事会を持つ全ての法人に影響を及ぼすことは明らかであり、被上告人の述べ立てる些細な不便を無視し、大局的になされなければならない。

一二、本件は、法人の理事が包括的な行為につき委任出来ないという法原則の下に於いて、理事会での理事の職務行為が包括的であるかどうかという問題に帰着するが、第一審判決が簡明に説く通り、被上告人の理事会は会議体として理事相互の協議によって、区分所有者の利益増進のため真に妥当な結論に到達すべきことが要請されているものと解され、したがって被上告人の理事会における理事の職務行為は、包括的な行為であるといわざるを得ず、ここに代理人を出席させることは、包括的な代理行為として民法第五五条の禁止するところというべきであって、これに反する原審判決は取消を免れない。

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